契約の基本
契約書を送ったのに、返事が来ない。その申込みはいつまで生きているのか
2026年10月19日·約7分·株式会社ケアン
契約書を送ったのに返事が来ない、という場面の話です。 紙でも電子でも起きますが、電子にすると「相手がまだ開いていない」が見えてしまうので、かえって気になります。
待っていていいのか、もう一度送るべきか、こちらの申込みはまだ生きているのか。 待っている側が気にするのは、だいたいこのあたりだと思います。
この記事では、民法がどこまで決めていて、どこから決めていないかを、 条文のまま並べます。言い換えると間違いが混ざるので、原文をそのまま引いて、 出典も置いておきます。
出発点は「届いた時」
契約は、申込みに対して相手方が承諾をしたときに成立します。その承諾がいつ効力を生じるのかを、 民法はこう書いています。
意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
書いてあるのは「到達した時」までです。 「読んだ時」とも「開いた時」とも書かれていません。
では、メールやシステム上のやりとりで「到達」がどの瞬間を指すのか。そこは条文を読んでも決まりません。郵便なら郵便受けに入った時、といった説明がされますが、 電子のやりとりでどこを指すのかまでは書かれていないので、ここは補わないでおきます。 争いになれば、そのときの事情を見て判断されるところです。
契約の成立そのものの順番は、「契約は、いつ成立するのか」で条文をたどっています。申込みと承諾の2つだけで成立し、書面は原則として要らない、 というところまで確かめた記事です。
受け取らないようにしている相手については、条文がある
同じ第97条の2項に、こういう決まりが置かれています。
相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。
— 民法 第97条第2項。出典: e-Gov 法令検索の 法令データ
届かないようにされてしまった通知を、届いたものとして扱う、という条文です。 ただし、付いている限定のほうが大事です。「正当な理由なく」「到達することを妨げた」と書かれています。
何が「正当な理由なく妨げた」に当たるのかは、条文には書かれていません。メールを開かないまま置いてあることがこれに当たる、とも当たらない、とも書かれていない。 忙しくて見ていないのか、迷惑メールに入っているのか、意図して避けているのか。 外から見た「開いていない」は、そのどれとも区別がつきません。 ここを「開かなければ届いたことになる」と読むのは、条文より先に行きすぎています。
返事が来ないまま、申込みはいつまで生きているのか
もうひとつ、待っている側にとって実際に効いてくる条文があります。「いつまでに返事をください」と書いたかどうかで、扱いが分かれます。
期間を定めて送ったとき
承諾の期間を定めてした申込みは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。
— 民法 第523条第1項。出典: e-Gov 法令検索の 法令データ
そして、その期間が過ぎたらどうなるか。
申込者が前項の申込みに対して同項の期間内に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。
— 民法 第523条第2項。出典: e-Gov 法令検索の 法令データ
期間を書いておけば、その期間内に承諾の通知を受けなければ、申込みは効力を失うと条文に書かれています。待ち続けなくてよい、ということが決まっている形です。 そのかわり、期間を定めた申込みは、期間の途中で撤回することができません (撤回する権利を留保していた場合は別です)。
期間を定めずに送ったとき
承諾の期間を定めないでした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。
— 民法 第525条第1項。出典: e-Gov 法令検索の 法令データ
こちらは、「相当な期間」という言葉が残ります。それがどれだけなのかは条文に書かれていません。 つまり、期間を書かずに送ると、いつまで撤回できないのか、いつ効力を失うのかが、 条文を読んでも分からない状態になります。
期間を定めずに送ったとき
- 承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない(第525条第1項)
- 「相当な期間」がどれだけかは、条文に書かれていない
- いつ効力を失うかも、条文では決まらない
「いつまでに」を書いて送ったとき
- 期間内に承諾の通知を受けなければ、申込みは効力を失う(第523条第2項)
- そのかわり、期間の途中で撤回することができない(同条第1項本文)
- 撤回する権利を留保したときは、この限りでない(同項ただし書き)
期間が過ぎてから返事が来たとき
遅れて届いた承諾については、短い条文が1本あります。
申込者は、遅延した承諾を新たな申込みとみなすことができる。
— 民法 第524条。出典: e-Gov 法令検索の 法令データ
「みなすことができる」と書かれています。 遅れて届いた承諾で自動的に契約になるのでもなく、まったくの無駄になるのでもなく、 こちらが新しい申込みとして受け取るかどうかを選べる、という形です。 遅れた返事が来たときに、こちらが応じればそこから契約の話になり、 応じなければそのままだ、ということになります。
条文には無いけれど、送る側で決められること
ここから先は条文に書かれていないので、上に引いた条文から考えるとこうなる、という整理です。
- 「いつまでに」を本文に書いて送る。第523条は、期間を定めた申込みについての条文です。 書いておけば、その期間が過ぎたときの扱いが条文の側で決まります。 書かなければ「相当な期間」のままになります。
- メール1本に頼らない。第97条第1項が決めているのは「到達した時」から効力を生ずるということで、 どう送るかではありません。送ったことを電話やほかの連絡でも伝えておけば、 相手が気づかないまま時間が過ぎる場面は減ります。
- やりとりの日時を残す。成立そのものは条文の決まりで動きますが、いつ送って、いつ届いたのかは、 記録が無ければ記憶の話になります。
Csign で送った契約では、送った日時、相手が開いた日時、同意した日時、締結した日時が記録に残り、 締結証明書としてPDFで発行されます。紙のやりとりをやめたときに何が変わったかは、1本目の記事に書いています。
ただし、その記録が「到達していた」ことの証明になるかどうかは、別の話です。上に書いたとおり、電子のやりとりで到達がどの瞬間を指すのかは条文に書かれていません。 記録として残せるのは「どの日時に何があったか」までで、その先の評価を当社が決められるわけではありません。
どこまでが確かで、どこからは確かでないか
この記事で条文から確かめられたのは、次の5つです。
- 意思表示は、その通知が相手方に到達した時から効力を生ずる(民法 第97条第1項)
- 相手方が正当な理由なく到達を妨げたときは、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす (同 第97条第2項)
- 期間を定めてした申込みは撤回することができず、その期間内に承諾の通知を受けなかったときは 効力を失う(同 第523条第1項・第2項)
- 遅延した承諾は、申込者が新たな申込みとみなすことができる(同 第524条)
- 期間を定めないでした申込みは、承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまで 撤回することができない(同 第525条第1項)
一方で、条文だけでは決まらないことも、同じだけあります。
- 電子のやりとりで「到達した」といえるのがどの瞬間なのか
- 相手が開かないまま置いていることが「正当な理由なく妨げた」に当たるのか
- 期間を書かなかったときの「相当な期間」がどれだけなのか
どれも、やりとりの中身とそのときの事情を見て判断されるところです。 返事が来ないまま困っている契約があるときは、弁護士などの専門家にご確認ください。 この記事は公表されている条文を一般的にまとめたもので、個別の判断に代わるものではありません。
そのうえで、条文を読んで分かるのは、待つ側がいちばん先に決められるのは「いつまで待つか」だということでした。 相手が開くかどうかはこちらでは決められませんが、 期間を書いて送るかどうかは、送る前にこちらで決められます。