取適法
下請法が「取適法」になって、発注書の渡し方が変わった
2026年9月10日·約7分·株式会社ケアン
取引先に仕事をお願いするとき、発注書を紙で渡していますか。それとも、メールに添付して 送っていますか。
この「どちらでもいいのか」という問いに対する法律の答えが、2026年1月1日に変わりました。長く「下請法」と呼ばれてきた法律が 「取適法(中小受託取引適正化法)」に変わり、発注のときに渡す書面の決まりも書き直されています。 条文の新旧を並べて、何がどう変わったのかを見ておきます。
まず、名前が変わりました
中小企業庁は、この改正をこう案内しています。
「下請法」が改正され、2026年1月1日から「中小受託取引適正化法(取適法)」に変わります。
法律そのものの正式な題名は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に 関する法律」です。長いので、以下は「取適法」と書きます。呼び名だけでなく、 「親事業者」「下請事業者」という言い方も「委託事業者」「中小受託事業者」に改められました。
改正の中身は支払いの手段や価格の決め方にも及んでいますが、この記事で扱うのは発注のときに渡す書面の一点だけです。ここが、契約書を電子でやりとりしている 会社にいちばん近いところだからです。
前の法律では、電子で渡すには「承諾」が要りました
まず、2025年までの下請法がどう書いてあったかを見ます。原則は、紙の交付でした。
親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。
— 下請代金支払遅延等防止法 第3条第1項(令和7年5月23日時点)。出典: e-Gov 法令検索の 法令データ(読む用の 条文ページ)
そのうえで、電子で渡す道が第2項に用意されていました。ただし、条件が付いていました。
親事業者は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、当該下請事業者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて公正取引委員会規則で定めるものにより提供することができる。
「書面の交付に代えて」「当該下請事業者の承諾を得て」。 この2つの言葉が、前の法律の作りをよく表しています。紙が本筋で、電子はその代わり。 代わりにするには、相手の承諾が要る。そういう並びでした。
いまの条文では、書面と電磁的方法が並んでいます
2026年1月1日から効いている取適法の第4条は、こうなっています。
委託事業者は、中小受託事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、中小受託事業者の給付の内容、製造委託等代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を、書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて公正取引委員会規則で定めるものをいう。以下この条において同じ。)により中小受託事業者に対し明示しなければならない。
読み比べていただくと、違いがはっきりします。「書面又は電磁的方法により」。 紙と電子が、同じ高さで並びました。「書面の交付に代えて」という言い方も、相手の承諾を得るという条件も、新しい条文には書かれていません。
前の下請法
〜2025年12月
- 原則は、書面を交付する
- 電子で渡すには「当該下請事業者の承諾を得て」が条件
- 電子は、書面の交付に「代えて」行うもの
いまの取適法
2026年1月1日〜
- 「書面又は電磁的方法により」明示する
- 承諾を得ることは、条文に書かれていない
- ただし書面を求められたら、遅滞なく交付する
もう一つ、言葉が「交付」から「明示」に変わっています。紙を手渡すことを前提にした言い方から、 中身を相手に示すことを求める言い方へ。電子でのやりとりを前提に置き直した、ということだと 読めます。
ただし、電子ならどんな送り方でもよい、と書いてあるわけではありません。条文には 「公正取引委員会規則で定めるものをいう」とあります。どの方法が電磁的方法にあたるかは、 規則の側で決められています。
紙を求められたら、紙で渡す
承諾が条文から消えた代わりに、受け取る側の逃げ道が第2項に置かれました。ここは見落とせません。
委託事業者は、前項の規定により同項に規定する事項を電磁的方法により明示した場合において、中小受託事業者から当該事項を記載した書面の交付を求められたときは、遅滞なく、公正取引委員会規則で定めるところにより、これを交付しなければならない。
— 取適法 第4条第2項。出典: 上と同じ e-Gov 法令検索の 法令データ
つまり、条文のうえではこういう順序になります。電子で明示するのに、事前の承諾は求められていない。 けれども、あとから「紙でください」と言われたら、遅滞なく紙を渡す。
電子に切り替えるとき、実務で用意しておくとよいのはここだと思います。 「紙でほしい」と言われる場面は必ず出てきます。そのときに誰がどう印刷して送るのかを 決めておかないと、遅滞なく、が守れません。ちなみに、この第2項にも 「公正取引委員会規則で定める場合は、この限りでない」という但し書きがあります。 例外の中身は規則を見ることになります。
「直ちに」は、すぐに
条文には「直ちに」明示しなければならない、とあります。この言葉について、 公正取引委員会は質問への回答の中でこう述べています。
「直ちに」とは「すぐに」という意味である。
— 公正取引委員会 よくある質問コーナー(取適法)Q50 への回答より
同じ回答は、契約書を発注時の明示の代わりにしようとする場合について、こう続けています。 発注から契約締結まで日数がかかるのであれば、発注後直ちに明示したとはいえない。 その場合は、契約書とは別に、発注後直ちに明示をしなければならない、と。
契約書と発注書を1つにまとめたい、という気持ちはよく分かります。ただ、契約を結ぶまでに日数がかかる取引では、その2つは別の仕事になるという ことのようです。電子契約サービスを使っていても、この順序は変わりません。
電話での発注についても、同じページに回答があります。
緊急やむを得ない事情により電話で注文内容を伝える場合であっても、電話連絡後直ちに4条明示をしなければならない。
— 公正取引委員会 よくある質問コーナー(取適法)Q49 への回答より
続けて「なお、電話のみによる発注は、発注内容等の明示義務違反となる」とも書かれています。 急ぎの電話は構わないけれど、電話で終わらせてはいけない、ということです。 電子で明示できるようになったことは、この点ではやりやすさにつながるかもしれません。 電話を切ったあとに送るものが、封筒に入れて投函する紙でなくてもよくなったからです。
形に残る方法で、というのは繰り返し出てきます
公正取引委員会の同じページには、記録の残し方についての回答が何度か出てきます。たとえば、 取引の相手方が対象になるかどうかを確かめる方法について。
確認方法としては、書面又は電子メール等の電磁的方法などの記録に残る方法が望ましい。
— 公正取引委員会 よくある質問コーナー(取適法)Q15 への回答より
価格の協議についても、当事者間の認識に齟齬が生じないよう、書面や電子メール等の形に残る方法で 行い、その記録を作成・保存しておくことが望ましい、と述べられています。
紙か電子か、という話ではなく、あとから見返せる形で残っているか。 そこが問われている、と読めます。私たちが紙の契約書をやめたときも、変わったのは 紙を運ぶ時間だけで、中身を読んで考える時間は変わりませんでした。 紙をやめることと、記録をきちんと残すことは、別の話だということだと思います。
どこまでが確かで、どこからは確かでないか
この記事で確かめられたのは、次の3つです。
- 2026年1月1日から、発注時に明示すべき事項は「書面又は電磁的方法」で明示することとされている (取適法 第4条第1項)
- 前の下請法にあった「承諾を得て」という条件は、新しい条文には書かれていない (旧・下請法 第3条第2項との読み比べ)
- 電磁的方法で明示しても、書面の交付を求められたら遅滞なく交付する義務がある (同 第4条第2項)
一方で、お手元の取引がそもそも取適法の対象になるのかは、この記事では 決められません。委託の種類(製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託など)と、 当事者の規模の組み合わせで決まる仕組みになっていて、条文と規則を当てはめる作業が要ります。 明示しなければならない事項の細目も、公正取引委員会規則の側に置かれています。
対象になるかどうか、何をどこまで書くべきか、といった個別の判断は、公正取引委員会や 中小企業庁の相談窓口、または弁護士などの専門家にご確認ください。この記事は公表されている 条文と役所の説明を一般的にまとめたもので、個別の判断に代わるものではありません。
それでも、条文が「書面又は電磁的方法」と並べて書き直されたことは、 発注のやりとりを電子に寄せていこうとする会社にとって、追い風だと思います。 紙で渡すか電子で渡すかを、相手の承諾を取り付けてから決める話ではなくなった。 あとは、紙を求められたときにすぐ出せる備えをしておくこと。そこだけです。