印紙税
電子契約に収入印紙が要らないのは、なぜか
2026年9月10日(更新 2026年9月11日)·約6分·株式会社ケアン
紙で契約書を交わすと、収入印紙を貼ることがあります。同じ内容を電子契約で交わすと、 印紙は要りません。ここまではよく言われる話です。
ただ、なぜ要らないのかを知らないまま使っていると、危ないところがあります。 電子にしたのに印紙が必要になる場面が、実際にあるからです。 私たちも自動車の販売で契約書を電子にしていて、ここは何度も確かめました。 条文と国税庁の見解にあたって、整理しておきます。
印紙税は「文書」にかかる税金
出発点はここです。印紙税は、契約という行為にかかる税金ではありません。 契約書という紙にかかる税金です。
国税庁は、電子メールで送った電磁的記録について、はっきりこう答えています。
印紙税の課税対象となるのは、課税物件表の物件名欄に掲げられている文書であり、 電磁的記録は文書に含まれません。したがって、おたずねの電磁的記録に印紙税は課税されません。
— 国税庁 質疑応答事例 「取引先にメール送信した電磁的記録に関する印紙税の取扱い」(関係法令通達: 印紙税法第2条)
建設工事の注文請書を、紙で作る代わりに電子署名を付けてメールで送っている会社からの 照会に対する回答です。この事例は、令和7年8月1日現在の法令・通達に基づいて作成されています。
「作成」とは、用意することではなく使うこと
では、なぜ電磁的記録は文書に含まれないのか。手がかりは「作成」という言葉の意味にあります。 印紙税は課税文書を「作成」したときにかかりますが、この作成は、書類を用意することではありません。
法に規定する課税文書の「作成」とは、単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、 課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう。
— 印紙税法基本通達 第44条(作成等の意義)
同じ第44条の第2項は、「作成の時」を文書の種類ごとに定めています。注文請書のように相手方に渡す 目的で作る文書なら交付の時、契約書のように当事者双方が署名押印して合意を証明する 文書なら証明の時です。つまり、印刷して机の上に置いてあるだけの契約書に、 印紙税はかかりません。相手に渡すか、双方が署名押印して、はじめて課税されます。
ここまで来ると、電子契約の理由が見えてきます。渡す現物が無いからです。
ファクスと同じ扱い
福岡国税局の文書回答事例に、この筋道が出てきます。注文請書をPDFに変換してメールで送る場合について、 照会した会社が示した考え方に対し、国税局が「貴見のとおりで差し支えありません」と回答したものです。
注文請書の調製行為を行ったとしても、注文請書の現物の交付がなされない以上、 たとえ注文請書を電磁的記録に変換した媒体を電子メールで送信したとしても、 ファクシミリ通信により送信したものと同様に、課税文書を作成したことにはならないから、 印紙税の課税原因は発生しないものと考える。
— 福岡国税局 文書回答事例(別紙・照会者の見解)(平成20年10月24日。福岡国税局は「貴見のとおりで差し支えない」と回答)
ファクスと同じ扱い、というところが分かりやすいと思います。 ファクスで契約書を送っても、送った紙は自分の手元に残ります。 相手に届くのは、相手の機械が印刷した別の紙です。だから「交付」にあたらない。 電子契約も理屈は同じで、新しい制度ができたわけではありません。 もとからある印紙税法の考え方を、そのまま当てはめた結果です。
落とし穴: あとから「署名・押印のある紙」を渡すと、そこで課税される
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。同じ別紙には、続けてこう書かれています (この部分も国税局が「貴見のとおり」とした範囲です)。
ただし、電子メールで送信した後に本注文請書の現物を別途持参するなどの方法により 相手方に交付した場合には、課税文書の作成に該当し、現物の注文請書に印紙税が課される ものと考える。
電子で送ったから非課税になった、のではありません。渡していないから課税されていないだけです。あとで、契約の成立を証する紙 (当事者の署名や押印、原本証明のあるもの)を渡せば、その紙に課税されます。
ここで「紙」の中身を分けておく必要があります。国税庁は、署名・押印・証明のない印刷物は 「単なる写し」で課税対象にならない、とはっきり書いています。
契約書の正本を複写機でコピーしただけのもので、上記のような署名もしくは押印または証明のないものは、 単なる写しにすぎませんから、課税対象とはなりません。
— 国税庁 タックスアンサー No.7120「契約書の写し、副本、謄本等」(令和8年4月1日現在法令等)
同じページには、写しと表示してあっても「契約当事者の双方または文書の所持者以外の一方の署名または 押印があるもの」は課税対象になる、とも書かれています。つまり、渡すのが署名・押印の無い印刷物なら 課税されず、双方が署名押印した紙なら、渡す・渡さないにかかわらず、その紙に課税されます。
契約書を作る
紙に印刷しても、署名押印していなければ、この時点では課税されない
電子で送る
渡す現物が無いので、課税文書を作成したことにならない
署名・押印のある紙を作らず、渡さなければ、印紙は要らない
署名・押印・証明の無い印刷物は「単なる写し」で、自社で保管しても相手に渡しても課税されない(No.7120)
あとから署名・押印のある紙を渡すと、そこで課税される
「紙の控えもほしい」と言われて、署名押印した紙を渡した、など。双方が署名押印すれば、手元に置くだけでも課税
実務で起こりそうなのは、こういう場面です。
- 電子で契約を交わしたあと、お客様に「紙の控えもほしい」と言われて、印刷して両者で署名押印し、お渡しした
- 電子で済ませたが、社内の決裁や保管の都合で紙に出力し、署名押印して相手にも1部渡した
- 納車のときに、契約書一式を印刷し、その場で署名押印して持参・交付した
印刷して自社で保管するだけで、相手の署名押印も自社の押印もないなら、課税文書にはなりません(No.7120)。 ただし、双方が署名押印した紙を作れば、手元に置くだけでも課税されます。 分かれ目は「契約の成立を証する紙(署名・押印・証明のあるもの)を作って、相手に渡したかどうか」です。 署名・押印のない単なる印刷物は、渡しても課税対象になりません(No.7120)。 電子契約にするなら、署名押印した紙を作らない・渡さないところまでを運用に含める。 ここを曖昧にすると、電子にした意味が薄れます。
そもそも印紙の要らない契約書もある
もうひとつ、順番として先に確かめておきたいことがあります。紙で作っても印紙が要らない契約書なら、電子にしても印紙の分は浮きません。
私たちの本業でいえば、自動車の売買契約そのものは「物品の譲渡」で、印紙税の対象ではありません。 一方、納車前の整備やコーティング、用品の取付といった作業を同じ契約書に書き込むと、 その契約書は請負の契約書として扱われ、印紙が要ります。しかも作業代を車両代と分けずに 「一式」で書くと、車両代を含めた全額で判定されます。この点は1本目の記事に、国税庁の質疑応答事例つきで書きました。
つまり「電子にすると印紙が浮く」の効き方は、契約書の種類によって違います。 効くのは、もともと印紙が必要だった契約書です。
どこまでが確かで、どこからは確かでないか
ここまでを整理すると、確かなのは次の3つです。
- 印紙税がかかるのは文書であり、電磁的記録は文書に含まれない(印紙税法第2条・上記の質疑応答事例)
- 「作成」とは調製ではなく行使であり、交付する目的の文書は交付の時、当事者双方が署名押印して合意を証明する文書は証明の時に課税される(基本通達第44条)
- 電子で送ったあとに現物(署名・押印・証明のある紙)を交付すれば、その現物に課税される。署名・押印・証明の無い印刷物は単なる写しで課税されない(上記の文書回答事例・No.7120)
一方で、お手元の契約書がどの号の文書にあたるかは、書いてある中身で決まります。 表題ではありません。「注文書」という題でも中身が請負の成立を証すものなら請負の契約書として 扱われますし、逆もあります。ここは一般論では決まらないところなので、 判断に迷う契約書は、税務署か税理士にご確認ください。 この記事は一般的な情報をまとめたもので、個別の判断に代わるものではありません。
私たちは、印紙のことを考える手間そのものを減らしたくて、契約書を電子にしました。 判断が要らなくなるわけではありませんが、署名押印した紙を作らない・渡さないと決めてしまえば、 毎回の契約で悩む場面はかなり減ります。