電子帳簿保存法
契約書を電子で保存するときの決まりごと
2026年9月28日·約8分·株式会社ケアン
契約書を電子でやりとりすると、事務所の棚は軽くなります。紙のファイルが増えません。 ただ、代わりに増えるものがあります。データを残しておく仕事です。
「パソコンのどこかに入っているから大丈夫」で済むのかどうか。ここは気分ではなく、 法律と省令に書いてあります。どこに何と書いてあるのかを、順に見ていきます。
関係するのは、電子帳簿保存法という法律です
正式には「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」 といいます。長いので、以下は「電子帳簿保存法」と書きます。国税庁は、この法律のうち 電子でやりとりした取引の分について、こう説明しています。
所得税(源泉徴収に係る所得税を除きます。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、一定の要件の下で、その電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならないこととされています(電子帳簿保存法7)。
— 国税庁 電子帳簿保存法の概要「4 電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度の概要」より
「保存しなければならない」。ここが出発点です。電子でやりとりしたなら、 そのデータを残す。選べる話ではなく、義務として書かれています。
契約書は「電子取引」の中に、名前で挙がっています
では「電子取引」とは何を指すのか。法律の第2条に定義があります。
取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいう。以下同じ。)の授受を電磁的方式により行う取引をいう。
注文書、契約書、送り状、領収書、見積書。契約書は、条文に名前が書かれています。 それを紙ではないやり方でやりとりすれば、電子取引にあたる、という組み立てです。
では、どんなやりとりが「電磁的方式」なのか。国税庁は、同じページの注でこう並べています。
「電子取引」とは、取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいいます。)の授受を電磁的方式により行う取引をいい(電子帳簿保存法2五)、いわゆるEDI取引、インターネット等による取引、電子メールにより取引情報を授受する取引(添付ファイルによる場合を含みます。)、インターネット上にサイトを設け、そのサイトを通じて取引情報を授受する取引等が含まれます。
— 国税庁 電子帳簿保存法の概要の注より
メールに契約書のPDFを添付して送る。サイトにログインしてもらって受け取る。 どちらもここに挙がっています。特別なシステムを使っているかどうかではなく、紙を手渡さずにやりとりしたかどうかで線が引かれている、と読めます。
紙で受け取った契約書
郵送・手渡し
- 紙のまま保存するのが基本
- 読み取って電子で保存する道もある(スキャナ保存。別の条文)
- この記事では扱わない
電子で受け取った・送った契約書
メール添付・サイト経由など
- 「電子取引」にあたる
- その電磁的記録を保存しなければならない(法7条)
- 保存のしかたは財務省令(規則4条)が決めている
紙で受け取った契約書を読み取って電子にする話(スキャナ保存)は、同じ法律の別の条文で、 求められる要件も違います。混ざりやすいところですが、この記事ははじめから電子でやりとりした契約書だけを扱います。
条文は「財務省令で定めるところにより」と続きます
法律そのものの第7条は、短い一文です。
所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。
— 電子帳簿保存法 第7条。出典: e-Gov 法令検索の 法令データ
肝心の中身は「財務省令で定めるところにより」の先にあります。 その財務省令が、電子帳簿保存法施行規則です。契約書の保存でいちばん見ることになるのは、 この規則の第4条です。
どこに、どれだけの間しまうか
規則の第4条第1項は、まず場所と期間の決め方から書き出しています。
当該取引情報の受領が書面により行われたとした場合又は当該取引情報の送付が書面により行われその写しが作成されたとした場合に、国税に関する法律の規定により、当該書面を保存すべきこととなる場所に、当該書面を保存すべきこととなる期間、次に掲げる措置のいずれかを行い
回りくどい書き方ですが、言っていることは分かりやすいと思います。もしその契約書が紙だったら、どこに、何年しまうことになっていたか。 その場所と、その期間。データになっても、そこは動かさない、ということです。
つまり「何年残せばいいのか」は、この条文の中ではなく、 その書類について定めているそれぞれの税法の側にあります。事業の形や書類の種類で変わるので、 お手元の契約書が何年なのかは、所轄の税務署か税理士にご確認ください。
四つの措置から、いずれかを行う
続けて第4条第1項は「次に掲げる措置のいずれかを行い」として、四つを並べています。 全部やる必要はなく、いずれかです。一つめは、こう書かれています。
当該電磁的記録の記録事項にタイムスタンプが付された後、当該取引情報の授受を行うこと。
— 同 第4条第1項第1号。出典: e-Gov 法令検索の 法令データ
二つめは、やりとりのあとに自分でタイムスタンプを付ける道です。 ここで言う「タイムスタンプ」は、ふつうの言葉ではなく、規則の中で定義された言葉です。 第2条第6項第2号ロに、こうあります。
総務大臣が認定する時刻認証業務(電磁的記録に記録された情報にタイムスタンプを付与する役務を提供する業務をいう。)に係るタイムスタンプ
— 同 第2条第6項第2号ロ。出典: e-Gov 法令検索の 法令データ
そして同じ号の中に「以下この号並びに第四条第一項第一号及び第二号において「タイムスタンプ」という。」 と置かれています。第4条の一つめ・二つめの道を選ぶなら、 その時刻認証業務を使うことが前提になる、という組み立てです。
三つめは、使うしくみの側で担保する道です。
当該電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行った場合には、これらの事実及び内容を確認することができること。
— 同 第4条第1項第3号イ。出典: e-Gov 法令検索の 法令データ
すぐ隣のロには「当該電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行うことができないこと」 と書かれています。直したら跡が残るか、そもそも直せないか。どちらかを満たすしくみで、やりとりと保存をする、ということです。
四つめは、しくみではなく、社内の決めごとで担保する道です。
当該電磁的記録の記録事項について正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程を定め、当該規程に沿った運用を行い、当該電磁的記録の保存に併せて当該規程の備付けを行うこと。
— 同 第4条第1項第4号。出典: e-Gov 法令検索の 法令データ
「規程を定め」「沿った運用を行い」「備付けを行う」。三つが並んでいるところが、 読み落としやすいと思います。書いて終わりではなく、そのとおりに運用して、 その規程を置いておく。三つで一組です。
一 やりとりの前に、タイムスタンプが付されている
規則の中で定義された「タイムスタンプ」。総務大臣が認定する時刻認証業務によるもの
二 やりとりのあとに、タイムスタンプを付す
一つめと同じく、規則の中で定義された「タイムスタンプ」を指す
三 訂正・削除の跡が残る(または、できない)しくみを使う
そのしくみで、やりとりと保存の両方を行う
四 訂正・削除を防ぐ事務処理の規程を定め、運用し、備え付ける
三つで一組。定めるだけでは足りない
探せるようにしておく、という条件もあります
四つのいずれかを行えば終わり、ではありません。第4条第1項は、そのあとに 「……に掲げる要件……に従って保存しなければならない」と続き、 第2条の要件をいくつか引いています。そのうち検索については、こう書かれています。
取引年月日その他の日付、取引金額及び取引先(ロ及びハにおいて「記録項目」という。)を検索の条件として設定することができること。
— 同 第2条第6項第5号イ。出典: e-Gov 法令検索の 法令データ
日付・金額・取引先の三つで探せること。同じ号のロとハには、 日付や金額は範囲を指定できること、二つ以上を組み合わせられることも書かれています。
ただし、第4条第1項の長い括弧書きの中で、この検索の要件が外れる場合が並べられています。 たとえば、こういう書き方が出てきます。
その判定期間に係る基準期間における売上高が五千万円以下である事業者である場合
— 同 第4条第1項の括弧書きより。出典: e-Gov 法令検索の 法令データ
この括弧書きは、税務調査などでデータの提示や提出を求められたときに応じられるようにしていること、 といった条件と組み合わさっていて、一読して当てはめられる形にはなっていません。「うちは小さいから検索は要らない」と早合点しないほうがよいところです。 「判定期間」「基準期間」も規則の第4条第2項で定義されていて、個人事業者と法人で違います。 当てはまるかどうかは、税務署か税理士にご確認ください。
もう一つ、引かれている要件に、画面と紙に出せるようにしておくこと、というものがあります。
当該国税関係帳簿に係る電磁的記録の備付け及び保存をする場所に当該電磁的記録の電子計算機処理の用に供することができる電子計算機、プログラム、ディスプレイ及びプリンタ並びにこれらの操作説明書を備え付け、当該電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力することができるようにしておくこと。
— 同 第2条第2項第2号。出典: e-Gov 法令検索の 法令データ
この条文は言葉としては帳簿について書かれていますが、第4条第1項が 「第二条第二項第二号」を名指しで引いているため、電子取引のデータにも読み込まれる形です。 求めていることは、パソコンとディスプレイとプリンタ、そして操作説明書。求められたときに、すぐ画面に出せて、すぐ紙に出せる。クラウドのサービスに入れっぱなしにしている場合も、必要になったときに 誰がどうやって取り出すのかは、決めておいたほうがよさそうです。
できなかったときのことも、書かれています
規則の第4条には第3項があり、決められたとおりに保存できなかった場合のことが置かれています。 災害などのやむを得ない事情を証明したとき、に続けて、こうあります。
納税地等の所轄税務署長が当該財務省令で定めるところに従って当該電磁的記録の保存をすることができなかったことについて相当の理由があると認め
— 同 第4条第3項。出典: e-Gov 法令検索の 法令データ
この先には、データと、それを整然とした形式で出力した書面の提示や提出の求めに 応じられるようにしているときは、第1項のとおりでなくてもデータの保存ができる、 と続きます。逃げ道が用意されているのは確かです。ただし、認めるのは税務署長で、こちら側で決められるものとしては書かれていません。 条文の末尾にも、そうした事情や理由が無かったとしたら保存できなかったと認められるときは この限りでない、という但し書きが付いています。
どこまでが確かで、どこからは確かでないか
この記事で条文から確かめられたのは、次の四つです。
- 電子でやりとりした契約書は「電子取引」にあたり、その電磁的記録を保存しなければならない (電子帳簿保存法 第2条第5号・第7条)
- 保存する場所と期間は、紙だったとしたら保存すべきこととなる場所・期間による (規則 第4条第1項)
- 第4条第1項が並べる四つの措置のいずれかを行い、あわせて第2条の要件 (検索、画面と書面への出力)に従って保存する
- 保存できなかったことに相当の理由があると所轄税務署長が認めた場合などの定めが、 第4条第3項に置かれている
一方で、お手元の契約書が何年保存なのか、検索の要件が外れる場合に当てはまるのかは、この記事では決められません。書類の種類と事業の形で変わりますし、 規則の括弧書きは条件が重なっています。国税庁は一問一答(Q&A)を電子帳簿保存法関係のページで公開していますが、個別の当てはめは、所轄の税務署か税理士にご確認ください。 この記事は、公表されている条文と国税庁の説明を一般的にまとめたもので、 個別の判断に代わるものではありません。
引用した条文は、いずれも2026年9月28日時点で効力のある版です。この法律と規則は 毎年のように手が入るので、大事な判断のときは、その時点の条文をご確認ください。
それでも、やることの骨格はそれほど多くありません。紙だったら置いていた場所に、紙だったら置いていた期間、 直した跡が分かる形で置いておき、日付・金額・取引先で探せるようにしておく。紙の書類に棚と背表紙を決めるのと、やることの筋は同じです。紙の契約書をやめるときは、 送り方だけでなく、受け取ったあとの置き場所も一緒に決めておくと、あとが楽になります。