契約の基本
電子契約の証拠は、紙の押印と何が違うのか
2026年9月21日·約7分·株式会社ケアン
電子契約の話をすると、かなりの確率でこう聞かれます。 「それ、ちゃんと証拠になるんですか」。
もっともな心配だと思います。紙なら、印鑑を押した契約書が手元に残ります。 電子だと、残るのはパソコンの中のデータです。同じように扱ってもらえるのか、 気になって当然です。
ここは、こちらが「大丈夫です」と言って済む話ではありません。ですので、法律がどう組み立てられているかを、条文のまま見ていきます。 紙と電子で、実は同じ形の決まりが置かれています。
紙のとき — 押印があると「推定する」
出発点は、裁判で書類が証拠として扱われるときの決まりです。民事訴訟法は、 まず「その書類が本物であることは、出した側が証明しなさい」と定めています (第228条第1項)。そのうえで、私文書についてこう続けます。
私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
大事なのは、最後の3文字です。「推定する」であって、「決まる」ではありません。 押してあれば、ひとまず本物として扱ってもらえる。けれども相手が 「その印鑑は勝手に使われた」と示せば、推定は覆ります。
つまり、紙の押印にも絶対の強さがあるわけではありません。争いになったときの出発点をこちら側に寄せる、という働きをしています。 ここを押さえておくと、電子の話も同じ物差しで見られます。
電子のとき — 本人による電子署名があると「推定する」
電子署名法には、いまの条文とよく似た形の決まりが置かれています。 章の題そのものが「電磁的記録の真正な成立の推定」です。
電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
長い一文ですが、骨だけ取り出すと 「電磁的記録は、本人による電子署名が行われているときは、真正に成立したものと推定する」。 紙の条文と、同じ形です。
紙の契約書
民事訴訟法 第228条第4項
- 本人(または代理人)の署名または押印がある
- → 真正に成立したものと推定する
- 押されていても、覆ることはある
電子の記録
電子署名法 第3条
- 本人による電子署名が行われている
- → 真正に成立したものと推定する
- カッコ書きの条件を満たすことが要る
「電子署名」と呼べるものの中身
では、その「電子署名」とは何を指すのか。これも同じ法律の中に書いてあります。 名前ではなく、はたらきで決められています。
一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
— 電子署名及び認証業務に関する法律 第2条第1項第1号。出典: e-Gov 法令検索の 法令データ
二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。
誰が作ったのかを示せること。あとから中身が書き換えられていないかを確かめられること。この2つの両方に当てはまる措置が、この法律でいう電子署名です。 印鑑の絵をPDFに貼り付けただけのものは、2つ目に当てはまりません。 見た目が印影でも、中身が書き換えられたかどうかを確かめられないからです。
いちばん効くのは、カッコの中
第3条をもう一度読むと、いちばん条件が厳しいのはカッコの中です。 「これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る」。
鍵にあたるものが、ちゃんとその人の管理下にあって、他の人には使えない状態になっている。 そこまで揃ってはじめて、第3条の推定が働く、という書き方になっています。
では、世の中の電子契約サービスがこの条件に当てはまるのか。この記事では書きません。サービスの作りによって違いますし、 当社が他社について評価できることでもありません。当社のサービスについても同じで、 当てはまりますとお約束することはしていません。条文が求めているものは何か、 というところまでが、一般的な情報として書ける範囲です。
実務で効くのは、争いになる前のところ
ここまで裁判の話をしてきましたが、正直に言えば、私たちが契約書を電子にした理由は、裁判に備えるためではありません。郵便の往復をやめたかったからです。
そのうえで、使ってみて分かったことがあります。争いを防ぐのに効いているのは、 推定が働くかどうかより前の、もっと手前のところでした。
- いつ送って、いつ開いて、いつ締結したのかが、記録として残っている
- 締結した契約書のファイルが、あとから差し替えられていないかを確かめられる
- 「言った」「聞いていない」が起きにくい。画面に出たものを読んで、押している
紙のときは、封筒を出した日も、相手が読んだ日も、こちらの記憶の中にしかありませんでした。 そこが記録に変わったことのほうが、日々の効き目としては大きいと感じています。
どこまでが確かで、どこからは確かでないか
この記事で確かめられたのは、次の3つです。
- 紙の私文書は、署名または押印があるときに真正に成立したものと推定される(民事訴訟法 第228条第4項)
- 電磁的記録は、本人による電子署名が行われているときに真正に成立したものと推定される(電子署名法 第3条)
- その電子署名は、作成者を示せること・改変の有無を確かめられることの両方を満たす措置を指す (同 第2条第1項)
一方で、個々の契約や、個々のサービスがこの条文に当てはまるかどうかは、 条文だけでは決まりません。鍵の管理のしかた、本人の確かめ方、記録の残り方といった 中身を見て判断されるところで、争いになれば最後は裁判所が決めます。
契約の内容や進め方でお困りのことがあれば、弁護士などの専門家にご相談ください。 この記事は公表されている条文を一般的にまとめたもので、個別の判断に代わるものではありません。
それでも、条文を並べて読むと、見え方が少し変わると思います。 紙にだけ特別な強さがあるわけではなく、電子にだけ高い壁があるわけでもない。どちらも「推定する」で止まっていて、その先は中身次第。同じ物差しの上に、並べて置かれています。